
在ヒューストン日本国総領事 加茂佳彦

明けましておめでとうございます。
本日は、新年早々、皆様には多数ご参会頂きまして誠にありがとうございます。本年も皆様方への行政サービスの一層の向上を目指しまして、総領事館員一同、それぞれの持ち場で最善を尽くす所存でございますので、宜しくお願い申し上げます。
今年は、年頭からぽかぽか陽気に恵まれ、うきうきとした気分で新年を迎えられた方も多いと思います。天気もそうですが、何と言っても日本経済の回復が本格化して参りました。勿論、デフレとか財政赤字とか心配な面が無くなったわけではありませんが、景気回復を企業も家計も実感できるようになってきました。親元が良ければ、出先も良くなるもので、ここヒューストンでも日本企業に元気が戻って参りました。これは、減少が続いていたJBAの会員数が昨年初めて上昇に転じたことにも現れています。ダラスでもサンアントニオでも日系企業の新たな進出が見られます。アメリカ経済も好調です。双子の赤字を抱えていますが景気拡大が続き、世界の景気を引っ張っています。ヒューストンでは石油、天然ガス価格の高止まりに支えられエネルギー関連産業全体が非常に好調です。この好環境を如何に活用し、また、将来に生かして行くかが我々の今年の課題でしょう。
15年に及ぶ経済停滞に日本がてこずっている間に世界は随分変わりました。中国の台頭、北朝鮮問題の先鋭化、そして経済のグローバル化が進みました。日本も変わりました。国際情勢の構造的変化に直面し、日本は、その国力に見合った国際責任を果たして行こうという姿勢を明確に示すようになりました。反テロ支援活動への積極的参加や日米安保同盟強化、更には、国連安保理常任理事国入りへの抱負等はその例です。中国の反日デモや歴史問題での日本への牽制もこの文脈で理解する必要があるでしょう。国内的にも、総人口が昨年初めて減少し、少子・高齢化や格差が拡大する社会への変容を印象付けました。昨年は、このような内外における構造変化を日本人全体が改めて実感した一年であったと思います。
昨年12月7日、日本記者クラブにおいて麻生外務大臣は「私のアジア戦略」と題する演説を行いました。その中で、明治維新以来、日本はアジアの「実践的先駆者(thought leader)」としての役割を果たしてきたと総括致しました。近代化をアジアで最初に成し遂げ、良い意味でも悪い意味でも常にアジアの先頭を走り抜け、今日のアジアの形成に深く関わってきたのが日本であるという分析です。我々は今日、時代の画期を迎えています。日本が賢明な「実践的先駆者」の重責を担い、アジアに平和と繁栄をもたらすためには、どうしたらよいのでしょうか。多少穿った物言いをすれば、グローバル化を過不足なく進めると同時に対外雄弁術を身に付けることではないかと私は考えます。かつて日本は近代化と伝統の調和を見事に両立させたと称えられました。日本の伝統と個性を捨ててグローバル化に奔走するだけでは面白くありません。他方、グローバル化に適切に対処しないと日本経済は立ち行かなくなってしまいます。どこで折り合いを付けるか、如何なるベスト・ミックスを実現して行くか、日本人の才幹が問われています。歴史問題を契機に、日本人が自己主張をするようになったと言われています。グローバル化の波が押し寄せる現代社会にあっては、以心伝心ではなく、口先で相手を言い負かす言葉の技術が幅を利かせています。外国語による弁論術は日本人が不得手とする技術ですが、これを克服する必要があると思います。日本人の精神風土に、「自己主張(assertiveness)」を評価する新たな価値観が定着することを期待したいと思います。
グローバル化への対処と自己主張は、アメリカに対する戦略でもあります。アメリカがグローバル化と自己主張の本場であることに照らせば、ヒューストンに住まう我々には特別の使命があるのかも知れません。それは本場の社会の仕組みや動きを良く観察すると共に、臆せず隣人とつきあえと言い換えることができると思います。我々がこのヒューストンでアメリカ社会の一員として豊かで充実した暮らしを営むこと自体が、日米両国の相互理解と友誼の増進に大きな力を与えることになるのです。当地のパーティーで、自分には日本人の親友がいるとか、日本文化の神髄に触れ人生観が変わったとか熱っぽく語りかけてくるヒューストニアンに何人も出会いました。皆様一人一人が日本人の民度の高さを映す鏡だと思うのです。日本の文化、伝統を誇りに思いつつ、多様性を尊重し、積極的に地元社会に参加することを、我々の年頭決意にしようではありませんか。
最後に、本年が皆様方にとりまして、幸多き年となりますよう祈念致しまして、私の新年のご挨拶と致します。