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総領事のヒューストン通信 |
大澤総領事離任挨拶文
2010年11月
在ヒューストン日本国総領事 大澤勉

この度、在ウィーン国際機関日本政府代表部大使の発令を受け、11月10日にオーストリアに転勤することになりました。澄み渡った快晴の空が続く、最も過ごしやすい時期にこの地を離れるに当たり、如何に自分が当地の人々に温かく迎えられ、家族のように馴染み親しんだかを改めて感じ、感謝の思いが湧き上がってきます。
2007年9月の着任当初から、前任の加茂総領事御夫妻に伺ったとおり、テキサス・オクラホマの人々はとても親切で、ヒューストンは大変住みやすいところだと実感しておりましたが、3年1ヶ月を経て、その思いはますます強まりました。当地の唯一の欠点だと思っていた夏の暑さも、もうこれを味わえないとなると、愛おしく思えるほどです。
当地に着任した直後の挨拶でも申し上げましたが、私は、総領事館の使命は、第一に、在留邦人の皆様が安全に安心して生活して戴けるように必要な支援を行うこと、第二に、我が国と管轄州との間の経済・政治・文化など様々な面での交流が更に発展するように努めることにあると考えています。かかる観点から、この3年1ヶ月の間、当地の日本人及びアメリカ人の方々にとって総領事館が頼りになる存在となることを目指し、様々な活動に取り組んできました。
この点で、この3年1ヶ月は、本当に多くの出来事が発生した、極めてチャレンジングな時期でした。「安全」の面では、なんといっても、2008年9月のハリケーン・アイクの襲来が忘れられません。ガルベストンを中心に死傷者が発生したほか、市内広域が数日から2週間に亘って停電に陥り、都市機能が麻痺しました。また、2009年4月末からは、メキシコ及びアメリカにおいて新型インフルエンザの流行が始まり、6月には世界的流行病(パンデミック)の宣言が行われるという事態もありました。いずれも我々の生活には大きな影響を与えましたが、幸い在留邦人の間で大きな人的被害を受けた方はなく、むしろ普段からの危機管理意識を高める契機になったのではないかと考えています。
「日米関係・交流」の面では、2008年7月に原油価格が1バレル147円と史上最高値を記録したのもつかの間、同年9月のリーマン・ショックにより金融危機が広がり、日米を含めた世界経済全体を荒波が襲いました。そうした中、米国では2009年1月にオバマ政権が、日本では同年9月に鳩山政権が発足し、新たな体制の下で日米同盟の一層の強化に向けた取組が始まりました。新政権においても、日米同盟が日本外交の基軸であることに何ら変わりはなく、本年9月の首脳会合では、安全保障、経済、文化・知的・人的交流の三本柱で日米同盟を深化させていくことが確認されています。
私も、その一翼を担うべく、日本商工会、日本人会、日米協会、日系人連盟などとの団体と連携して、様々な経済・文化事業を当地で実施したほか、テキサス州、オクラホマ州の各地を訪れ、行事に参加したり、日米交流の関係者と懇談したりしました。こうした活動を通じて、私が実感したことは、いずれの地においても日米両国は大変強い絆で結ばれており、それが数多くの人々によって支えられているという事実です。行く先々で、在留邦人の方々が現地の人々の信頼を得て、彼らと共に日米間の交流強化に取り組んでいる姿を見ることができ、大変心強く思いました。これらの方々と日米関係の新たな時代の構築に向けてともに働けたことは、私にとって一生の思い出です。
当地で多くの日本人が活躍していることも、私の励みとなりました。宇宙分野では、私の任期中、3回のスペースシャトル・ミッションに分かれて「きぼう」日本実験棟が打ち上げられ、土井隆雄及び星出彰彦、若田光一各宇宙飛行士の手によって、国際宇宙ステーション(ISS)に取り付けられました。また、昨年から今年にかけて野口聡一宇宙飛行士が日本人最長となる161日間に亘ってISSに滞在し、その間、山崎直子宇宙飛行士がスペースシャトル「ディスカバリー」号でISSを訪れ、初の日本人2名による宇宙同時滞在が実現しました。スポーツ分野では、松井稼頭央選手がアストロズ入りし、2009年8月に日米通算2千本安打を達成しました。文化関係では、2009年6月に日本人ピアニストの辻井伸行氏が、フォートワースで開催されたヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールで優勝しました。この他にも、当地では、文化、学術、医療、ビジネス等の分野で、多くの日本人が重要な役割を果たしています。
米国経済は景気後退から緩やかな回復を遂げていますが、未だに失業率は高止まりしており、先行きは予断を許さない状況です。一方、そうした中にあっても、テキサス・オクラホマは他州より良い経済状況にあり、人々も意気軒昂です。私は、この両州がこれからも益々成長し、日本人の活躍の場も更に広がっていくものと信じています。
今後、私が赴任していく先々で、そうしたニュースを耳にするのが、今から楽しみです。今回私が赴任する在ウィーン国際機関日本政府代表部は、ウィーンにある国際機関への日本政府代表としての役割を担っており、主な担当組織として、国際原子力機関(IAEA)、国連工業開発機関(UNIDO)、国連麻薬・犯罪事務所(UNODC)、通常兵器の輸出管理に関するワッセナー・アレンジメント(TWA)、弾道ミサイルの拡散に対するハーグ行動規範(HCOC)、包括的核実験禁止条約(CTBT)の事務局等があります。土井元宇宙飛行士が現在勤務している国連宇宙空間事務所(UNOOSA)も、担当組織の一つです。私は、次席大使として、これら組織における加盟国との国際交渉等に当たることになります。毎日、各国の主張がぶつかりあう厳しい交渉の世界であり、赴任後は当地の大らかさを懐かしく思うことでしょう。もし皆様方がウィーンを訪問される機会があれば、ぜひお声かけの上、テキサスやオクラホマにまつわるよもやま話で元気づけて頂ければ幸いです。
私の在任中、テキサス州及びオクラホマ州に在住する皆様方には大変お世話になりました。皆様方の御健康、御活躍とともに、当地での日米関係の更なる発展を祈念し、私の挨拶とさせて頂きます。